真夜中の園

中世?パロ



 鋭い金属音が高く鳴った。
 石造りで天井の高いその構内にはよく響く。
 見守る観客は少なくはなかったが、誰もが息を詰めて二人の成り行きを観戦していたため、そこは無人のときよりもひょっとすると静かだったかもしれない。衆人が見つめるのは、群青の髪と、蜂蜜色の髪。二人の少年の剣技だった。
「遅いな……」
 繰り出された鋭い突きを優美なくらいの動作で避けて、青い髪の少年……アスランが言った。
「うるさいっ」
 金髪の少年は短くわめくと、手首を返し続けざまに切りつけたが、それを読んでいたかのような正確さで軽く弾かれ、小気味よい音と共に剣は宙に舞った。
「あ……」
 かしゃんと床に落ちた自分の剣を見て少年の表情が落胆した。
「今回はよくもった方だと思うが」
 アスランの剣の切っ先が、相手の喉元に向けられた。
「カガリ・ユラ・アスハ。そろそろ降参する気になったか?」
「するわけないだろ!」
 いつ切りつけられてもおかしくない状態であっても、少年の……カガリの気勢はしおれることはないらしい。
 アスランはため息をついて剣を納めた。
「俺の言ったことがどうやら理解できてないようだな。上官に対する態度がそれでは困ると、ちゃんと教えただろう?」
 むすっとしたままのカガリに、アスランはひとつ忠告した。
「また罰が増えてもいいのか?」
 低い声にカガリがぎくりと肩を反応させた。不承不承、反抗をとりやめる。
 ようやく態度の崩れたカガリを見て、アスランは口許を緩めた。
「ここにいたいのなら上官の命令が絶対だってことはよく覚えておくんだな」
 床に転がったままだった剣を拾ってカガリに手渡すと、彼はその場を後にした。それを待って、集まっていた野次馬はある者は名残惜しそうにカガリを見ながら、あるものは剣術の話に熱心になりつつ、散会を始めたのだが。
 カガリはそこから動けなくなってしまっていた。
 アスランが剣を手渡した、そのすれ違いざまに耳元で告げられたことに、一瞬で真っ赤になってしまっていたのだ。
「剣に夢中になり過ぎるのも考えものだな。コルセットの紐が解けているのに気付いてないだろう?」
 言われて、さっきまで胸を締めつけていたものが、緩くなっていることに初めて気がいった。
(あいつ……っ)
 コルセットといえば通常は婦人がウエストを締め、細く見せるために使うものであるが、カガリの身につけているものはそうではなかった。ウエストではなく、胸回りを覆う武具に近い形をしており、それがカガリの胸を締め付けているのだ。
 しかし、その拘束が解けた今、カガリの胸囲は膨らみ、少年にはありえないラインを作っていた。
 カガリは硬直したまま、最後の一人が訓練場を出ていくのを待った。
 そして、周囲が完全に静まってから、あわてて胸元を押さえた。
「よかったぁ……」
 安堵の訪れとともに足の力が抜けてしまい、カガリは冷たい石の上にへたりこんだ。
 つとめて、いつもゆったりとした服装を選んでいるため、カガリの胸囲の変化には誰も気付かなかったようだった。
(女だってばれたら最悪だった……)
 少年の姿をしているが、カガリの本性は少女だった。
 彼女は、それを隠して、ここ王家直属の騎士団に入っているのだ。
 髪を短く肩まで切り、特別に作らせたコルセットで膨らみはじめた胸を隠し、持ち前の勇ましさで、あたかも少年のように振る舞っているが、カガリの正体は由緒ある子爵家の令嬢だ。
 ふわふわしたドレスを纏い、長く伸ばした髪を結って、のんびり庭園を散歩したりすることが本来の仕事である。
 しかし、家庭の事情と、カガリの向こう見ずな性格のおかげで騎士団の一員を演じることになってしまったのであった。
 
 ことの起こりは半年前、王室からの使者の訪問の日だった。
 カガリの家、アスハ家の仕えるプラント王家は貴族からなる騎士団を所有している。王家に忠誠を示す意味も込めて、貴族に生まれた男子は例外なく一定の期間をその騎士団に所属することが義務付けられているのだ。
 それは爵位を持つアスハ家にも課せられていることで、使者の用件はそのことだった。
「アスハ家の嫡子、キラを騎士団に徴集する」と。
(こんなところにキラをやらなくて本当によかった……)
 カガリは胸元を気遣いながら一目散に自室に帰り、コルセットを直していた。
 騎士団に入って半年。
 その間にも成長したカガリの胸は隠すのに苦労する。
 数々のリスクと、困難を背負わなくてはならなくても、カガリは弟の代わりに騎士団に入ってよかったと思うのだ。
 キラはまず体が弱い。
 騎士団の厳しい鍛練に耐えられるかどうかわからなかったし、なによりカガリの弟は気性が優し過ぎた。
 争いごとが苦手で、体を鍛えるため、たしなむ程度に習っていた剣術でも傷つけてしまった相手を悲しんで泣くような子供だった。
 カガリは姉として、そんな弟を騎士団に入れるなど許せることではなかった。
「カガリさん」
 きつく、紐を締め直して支度が調った頃にタイミングよく部屋の扉がノックされた。
「そろそろ夕餉ですが、行かれませんか?」
 やわらかい声はカガリの隣室の少年、ニコルだった。
 カガリは返事と一緒に扉を開けた。
「行く行く! ありがとな、ニコル」
 元気なカガリの姿を見て、ニコルは笑顔を返した。
「動いたからかなぁ、お腹ぺこぺこだ」
 二人は連れだって廊下を歩く。
 アスランと真剣勝負をしていた頃にはまだ高かった陽が傾き、石の廊下を黄金に照らしていた。
 日没までは二時間くらいだろうか。
 窓の向こうで落ちはじめた太陽をカガリはにらんだ。
「カガリさん、大丈夫ですか?」
 ニコルが心配そうにたずねた。
「昼間の勝負ではやはり負けてしまったらしいですけど……」
「大丈夫だ」
 遠慮しながら言うニコルにカガリはきっぱり宣言した。
「アスランなんかに負けてたまるか。今度こそ」
「そんなこと言ったらまた怒られますよ」
 ニコルは慌てて言った。
「カガリさんはそういうところをもっとちゃんと気をつけないとだめですよ。アスランさんは上官なんですから。今回の決闘だって……」
「わかってるって」
 カガリは手のひらを広げて小言を遮った。
 じつは、似たような決闘をカガリは何度もやらかしていた。
 今回の対決も乗馬の訓練で、馬が好きなカガリが、アスランの命令を無視して単独行動をしたとかしないとか、そんなことが原因だった。
「子供じゃないんですから、注意くらい素直に聞きましょうよ……」
「わかってるよ……」
(でもいつも言い返して、喧嘩になって……)
 カガリが折れないので、いつも最後には腕で決着をつけることになるのだ。
 そしてやはり勝ったことは一度もないのだが。
 でも、今回こそは勝ちたかった。
「もうすぐ日没ですけど……ほんとに大丈夫ですか?」
 ニコルが念を押す。
 本気で聞かれるとカガリは答えられなかった。
 アスランはカガリの直属の上司にあたる。
 カガリと歳はひとつしか変わらないのに、一個隊の隊長を勤めているような人なのだ。
 団内では天才剣士とも言われている。実力に差があるのはカガリにだってわかっていた。
「今は真っ向勝負じゃ敵わないのはわかってるさ。だから私、今回はちょっと作戦を考えたんだ」
 カガリはにやりと笑った。
 しかし、ニコルは反対にますます表情を悪くした。
「作戦って……どんな作戦ですか?」
「内緒だ」
 ニコルの心配をよそに、カガリはふふ、と笑った。
 決闘の刻限は日没まで。
 カガリの決起はもうすぐだった。
 
 
 時刻は進み、空の色が、一面の赤から群青と夕日色のグラデーションに変わる頃。
 陽の沈む直前に、カガリは暗くなってきた足元に注意を払いながら、木登りをしていた。
 大人しい弟キラとは正反対に子供の頃から活動的だったカガリは、ドレスを着せられても静かに庭を散歩するようなことはまずなかった。
 木を見つければ登り、小川を見つければ水遊びをし、侍女達を泣かせていた。
 木登りはおてのものだった。
 (あいつもまさか窓から来るとは思わないよな)
 カガリの作戦とはこれのことだった。
 二階にある、アスランの私室に届く位置に植わった大きな木を伝って、窓から彼の部屋に飛び入り、一気に決着をつける。
 決闘は一日のうちいつ申し込んでも、どこで行ってもいいというのがルールにあるので、不意打ちは反則ではないのだ。
 (びっくりしたらどんな顔するのかな)
 アスランが自分に剣を突き付けられ、負けを認める様子を思っただけで、カガリは頬が緩んでしまうのだった。
 
 (あれ、静かだな……)
 日没直前であたりは暗くなっている。
 開け放してある窓からランプの明かりが微かにもれているから、アスランは部屋にいるはずなのだ。
 窓に一番近い枝によじ登り、カガリは耳を澄ませた。
 物音はしない。
 カガリは考えた。
 (もし部屋にいなかったとしても、いちかばちか行かなくちゃ。じっとしてても負けは来るんだから、どうせなら)
 カガリは深呼吸をして、一旦息を止めた。
 両手を強く握って気合いを入れて、ひらりと、少女はとうとう窓に飛び込んだ。
「アスラン! 覚悟しろ!」
 空を切りながら剣を抜き、素早くアスランを探した。
 しかし、部屋はからっぽだった。
「覚悟しないといけないのは君だと思うが?」
 ふいに耳元で声がしたかと思うと、手首をひねられ、カガリは剣を取り落とした。
「わ……」
 (アス……っ?)
 思う間もなく、カガリの体はひょいと宙に浮き、窓際のベッドに倒されていた。
「アスラ……!」
「手応えがまるでないな」
 勢いよく二人分の体重がかかって、ベッドがたわむ。
 カガリを押し倒したのは、もちろんアスランだった。
 いつもの余裕のある笑顔でカガリの上におおいかぶさっていた。
「もう少し頑張ってくれないとおもしろくないぞ」
「おまえ……! し、知ってたのか?」
 カガリは焦った。
 この状況は非常にまずい。
「風もないのに木があれだけ揺れていたら不審に思わないほうがどうかしてるだろう」
 アスランの顔が近づいてきた。
「さて、どうしようか。どうしてほしい?」
「や、ばか、放せっ」
 アスランは囁くついでに耳を舌先で突いた。
「上官に対してその態度はいただけないって言っただろう」
 アスランは口許で微笑んだ。
「また今回も負けだったな。勝てないことなんてわかりきってるだろうに、それでも闘いたがるなんて……」
 カガリの頬にアスランの指が触れた。
「……もしかして誘ってるのか?」
「ばっ、ち、違う!」
 カガリは真っ赤になって憤慨した。
「闘ったって闘わなくったって結果は同じじゃないか! どうせ罰はあるんだろ。だったら可能性は小さくても罰がなくなるかもしれないほうを選ぶのは普通だ」
「罰じゃなくておしおきだけどな」
 アスランは軽くカガリに口づけた。
 挨拶よりは深いキス。
 そのキスを嫌だと思えないから困る。
「ばか」
 これはもう、戦闘の続きではない。
 逢瀬だった。
 四ヵ月ほど前のことだった、カガリとアスランが恋人の関係になったのは。
 キラと入れ替わり、騎士団に入ったことは両親にも秘密だったのに、それを入団して早々に見破ったのはアスランだった。
 その時、家族は関係ない、制裁は自分だけに留めてほしいとカガリは死ぬつもりでアスランに直訴したのだ。
 しかし、アスランはカガリを許し、黙認した。
 騎士団の勤めが果たせるのなら性別は問わないと。
 そのこともあって、カガリは騎士団員として文句のつけようのない働きをしようと奮闘し、それを助けてくれたのはアスランだった。
 秘密で繋がれた二人はゆっくりと仲を深め、互いを知り、惹かれあっていき。
 そして日陰で口づけを交わすように、秘やかに恋ははじまったのだった。
「んん……」
 はじまったばかりの二人は、キスをしだすと止まらなくなる。
 重ねるだけだった唇はしっとりと濡れ、絡めあう舌はどちらがどちらのかわからなくなるほど。
 カガリは何度目かの唾液を飲み込んだ。
「ふ……ぁ」
 山の端に引っ掛かっていた陽は完全に落ち、空は群青から闇に変わっていた。
 開け放したままの窓からアスランの部屋にも夜が忍び込み、二人を包んだ。
 光源は机の上のランプの明かりだけだったが。
 乏しい明かりは感覚を鋭敏にさせ、二人は肌と耳で互いを探りあっていた。
「や、だ……から、ちょっと待って……っ」
 何重にも着込んでいるカガリの服をアスランは次々取り去っていく。
 胸や太ももに愛撫をほどこされながらなので、口では止めてもカガリは上手く抵抗はできなかった。
「待たないよ。この季節、夜は短いんだ。カガリがこんな面倒な服を着てるから不必要に時間がかかるじゃないか」
 上着を取り去り、シャツのボタンを開け、コルセットの紐を解いて上半身をあらわにし。
 続けて下肢に手をやると、アスランはさらりとカガリを最後の下着だけにしてしまった。
 こうなったら当分は服は着られない。
「こっちのほうがずっと可愛い」
 いたずらっぽく言うと、アスランはキスをしてきた。
 情事の始まりの合図だ。
 舌を絡めながら、彼はカガリの肌に手を這わす。
 厚い少年の服の下に隠されて、普段触れられない少女の肌を、たっぷり味わうように。
 カガリの指先から腕、首も胸も、爪先まで丁寧に触る。
 肌のきめの細やかさや、体の曲線、柔らかさ、アスランの手に触れるすべてが、カガリを女なのだと教えていた。
「どうして誰も気付かないんだろうな。時々不思議でたまらない」
 アスランを知らなかった入隊当初ならいざ知らず、彼と密事を重ねるようになってからのカガリが、性別を偽っていることが誰にも疑われないのは不自然でもあった。
 事実、彼女のふとした仕種や視線に、目を奪われる者は少なくないのだ。
「それとも、もしかしたら気付かないふりをしているのかもしれないな」
 女性が騎士団にいるなどと、考え付くものはまずいないだろう。
 カガリに魅力を感じても、それを認めてしまえば、同性に惹かれたことになる。
 だから同僚達はあえて避けているのかも知れなかった。
「私はちゃんと男になりきれてるぞ……っ」
「どうだか」
 肌をまさぐりながらアスランはその上に唇を落としていく。
 見る者はいないのだから誰に示すでもない所有の証だったが、アスランはことさらに刻んでいった。
「んっ……」
「こんな声だすしな」
 さらに声を誘い出すよう、アスランの唇は胸の頂きにおよんだ。
「あんっ」
 体つきの割には大きめの乳房を片手で揉み、いじりながら赤いその頂点を吸う。
「や、あ……んっ」
「こんな声、誰にも聞かせられないな」
 意地悪いことを囁く。
 色づき固くなった果実を舌先でかすめるように舐められて、カガリは声を抑えてなどいられなかった。
 (もっと……)
 無意識のうちに思って、カガリは胸にうずめられたアスランの頭を抱いていた。
 それが伝わったのか、アスランはカガリをさらに乱れさせようと秘部に手を伸ばした。
 中指で薄い布越しに足の付け根を擦ると、木綿の下着が湿り気を帯びた。
「もう結構濡れてるな……なにがよかった?」
「知るか……っ」
 カガリは噛みついたが、直後に裏返った悲鳴を上げてしまった。
 不意打ちで、下着越しに花芽をいじられたのだ。
「ひやっ、……あ!」
 アスランはカガリのもっとも敏感なその部分を重点的に攻めた。
 ベッドの上はアスランが剥いだカガリの服でいっぱいだった。
「あ、あっ、……アスラ」
 木綿が擦るばかりでは次第に物足りなくなってきて、カガリは視線で訴えた。
 彼の指で直接、もっとしっかりとした刺激を与えて欲しかった。
 いつもならだいたいここで焦らされるのだが、存外にアスランはすんなりとカガリの下着を脱がせ、カガリの欲しかった愛撫をくれた。
 足の踏み場もなくなったベッドにまた一枚脱ぎ捨てた服が加わる。
「気持ちいい?」
 カガリの顔がよほど悦んで見えたのか、アスランは嬉しそうだった。
「知ら……ない、っん」
 さっきまでは控えめだった音が、直接外に響く。
 アスランが襞をまさぐり、だんだんと溢れてくる愛液を指に絡めるたび、ぐちゃぐちゃといやらしい音が鳴った。
 仕事や立場、それに隠さなければならない秘密がある以上、二人が体を重ねることは週に一度あれば多いほうで、時には一ヶ月も触れ合えないこともあった。
 その回数はアスランはもちろん、カガリにとっても不満があった。
 口では文句を言っても、アスランと触れ合うのが嫌いなわけではないのだ。
 我慢したのちに逢瀬が巡ってくるので、待ちわびた体の感度は良かった。
 親指でカガリの可愛い豆をくりくりと潰し、二、三本の指で内部の蜜を混ぜているうちに、アスランの手首まで雫はしたたっていた。
「ひっ、や!……ああ!」
 カガリの嬌声も切羽詰まってきていた。
 (あ、だめ……もう)
 カガリに最初の波が訪れていた。
「あ、…ああっ……、ぃ」
 秘部をまさぐる手は激しさを増し、カガリは一気に昇りつめた。
 (い……くっ)
 その言葉が頭をよぎった瞬間、計ったようにアスランの指がぴたりと止まった。
「ふあ……?」
 浮きかけた体が途中で止まる。
 ひどく中途半端に、行きそこねた快感が宙ぶらりんで浮いた。
「え……あの」
 涙のいっぱいたまった目でカガリはアスランを見上げた。
 しかし、彼はそれを無視して、さらに膣から指を引き抜いてしまった。
「アスラン……どうしたんだ?」
 カガリは彼が怒っているのだと思った。
 何か今の間に気に障ることをしてしまったのだろうか。
 怖々と恋人を見つめたが、彼女の予想に反して、顔を上げたアスランが浮かべたのは不敵な笑みだった。
「そんな顔してどうしたんだ?」
 笑った口許を開き舌を出して、彼は濡れそぼった手指を舐めた。
 おいしそうにカガリの蜜を口にする。
「どうしたって……あの」
 怒ってはいないのならどうしてなのだろう。
 愛撫が唐突に中断されたのは。
「何?」
「何って……だから」
 アスランは首を傾げたが、なんと説明すればいいのだろう。
 困って、カガリが今にも泣きそうな顔をすると、泣き出す前にアスランはやさしく言った。
「イキたくてイケなくて、どうしたらいいかわからないんだろう?」
 カガリの頬が一気に沸騰した。
 と同時にカガリはひらめいた。
 つまりアスランはすべて承知で愛撫をやめたのだ。
 しかも絶頂のまさに手前で。
「お、おまえな……っ」
 カガリはアスランにつかみ掛かった。
「怒った? そんなにイキたかったのか」
 怒ったカガリを見ても、アスランはしゃあしゃあと言う。
「ばか……っ、こんな」
「こんな中途半端じゃ困るか?」
 にやにやとカガリを見下ろし彼はとんでもないことを言った。
「それなら、カガリ、自分でしてみる?」
 カガリは続けて言おうとした悪態を飲み込んだ。
「なに言って……」
「こうしてみたらいいんだよ」
 言いながらアスランはカガリの手首をとり、秘部に導いた。
 さすがにカガリは仰天した。
「何言ってるんだよ、そんなことなんで」
「べつに、カガリがそのままでいいのならしなくてもいいんだぞ?」
 またもカガリは黙らされてしまった。
 たしかに、秘部はどうしようもないほど疼いていた。
 熱がこもって冷めない。
 もしアスランがいなければ、カガリは自分で自分の秘部をめちゃくちゃに触っていたかもしれない。
「でも、そんなことできるわけ……」
 カガリは途端に弱くなる。
「大丈夫だよ。いつも俺がしてるみたいにすればいいんだから」
 秘部から離れていた手を再び持ってきて、今度はしっかり濡れた部分に触れさせる。
「ふぁ……、でも…、できないよぉ、そんなこと」
 しかもアスランの目の前で。
「だから、これがお仕置きさ。できたらちゃんとカガリの欲しいものあげるから」
 楽しそうに笑うと、アスランは体を起こした。
 足を擦りあわせて途方に暮れるカガリを観察する姿勢に入ってしまった。
 カガリがいくら目に涙をためていても、本当になにもしないつもりらしい。
 (うう、なんでこんなことに……)
 今までで一番意地の悪いお仕置きかもしれなかった。
 足をねじりあわせ、身をよじってカガリはなんとか疼きを逃がそうとしたが。
 (だめ……)
 秘部がひくついているのがわかる。
 意識すればするほどたまらなくなってきて……。
 カガリは誘惑に負けてしまった。
「っ……、く」
 アスランの視線からなるべく逃れるように、顔をそらし、カガリはまぶたをぎゅっと閉じた。
 あわせた足の間にそろりと手を伸ばす。
 軽く触れるだけで秘部が濡れているのがわかる。
 とにかく触ってみると、アスランが触れたときと同じ音がした。
「俺がするみたいにしてごらん」
 ぎこちなく触るだけのカガリの自慰に、アスランがうながす。
「ばか、見るな……んっ」
 自慰の経験がないカガリは、自らの秘部の構造もよく知らないのだ。
 アスランはどうしてカガリの快感を引き出すのか。
 触れても触れても、上手くいかない。
 焦れったくて、カガリは体を縮めて、シーツを掴んだ。
「はぁ……ぅ、んっ」
 アスランが見ているのはわかっているのだが、カガリは遠慮などしていられなくなってきた。
 体を丸めて、激しく秘部を掻き回す。
 苦しそうに自慰に没頭するカガリを、アスランは満足げに見下ろしていた。
 (どうして……っ)
 恥ずかしさに堪えて、彼の言うとおりにしたのに、いつまでたっても、カガリの体は高揚しない。
 触らないでいるよりはましだが、かといって疼きを昇華することもできない。
 つたない自慰はカガリをよけいに追い詰めていた。
 カガリはほとんど泣きながらアスランに助けを求めた。
「あす…らん……」
「なに?」
 ことさらに優しく、アスランはカガリに顔を寄せる。
 もう甘えてしまいたくて、カガリは子供のようにねだった。
「アスラン、お願い……もう許して」
 震えながら、カガリは囁いた。
「うん……どうして欲しい?」
 乱れた金髪を直してやりながらアスランはたずねた。
「どうしてって……」
 わかっているくせに聞くのだ。
「それが言えたら今日は許してあげるよ」
「おまえ、ほんとに意地悪だ……っ」
「俺は十分優しいぞ。本気でカガリをいじめようと思ったらこんなものじゃ済まないからな」
 ほら、言わないと時間切れにするぞと、アスランは笑った。
「う……、えっと」
 カガリは手で顔を隠しながらやっと言った。
「アスランの……が、欲しい」
「へえ……」
 アスランはまたそらとぼけた返答をする。
 カガリはさすがに怒ってもいいだろうと思った。
「も、もういいだろ!ばか。そんなに許せないならもう絶対みんなの前でぼろはださない……っ」
「いや……」
 アスランは林檎のような頬に軽くキスをした。
「あんな可愛いカガリが見られるなら、どんどん約束なんか破ってくれてもいいかな」
 くすくすと笑いながらアスランはカガリを仰向けの体制に直した。
 まったく、こちらがどれだけ恥ずかしい思いをしたと思っているのか。
「うう……、ばかばかばかっ」
「はいはい」
 胸を叩いてきたカガリの手をアスランは捕まえ、カガリの体を開かせた。
「そろそろいいかな? 正直言うと俺もそろそろ限界なんだ」
 瞳を覗き込み、彼はたずねた。
 何がと問わずともわかるカガリは、小さくうなずき返した。
 情事のたびに毎度のようにいじめられるのだが、彼はいつも必ずここで確認をしてくれるのだ。
 散々恥ずかしい思いをさせながらも、しかし、アスランの触れてくる指も唇も限りなく愛おしげだった。
 それを感じるとき、とても幸せだと思う。
 きっちり服を着ていたアスランも、それらをシーツに脱ぎ捨てると、カガリのひざに手を置いた。
「カガリ、開いて」
 こじ開けられるのならまだしも、自分から開いて見せろと言われて、抵抗なくできるカガリではなかったが。
 彼の声がとても優しく誘っていたので、少しずつではあったが、カガリは足を広げた。
「そう……」
 大きく開くと、秘部まで開けて、ぱっくりと割れたのが感覚でわかる。
 自分がとてもいやらしい格好をしているという自覚で、カガリの秘部から蜜が漏れる。
「こんな君を知っているのは世界で俺だけなんだよな」
 アスランは優越感のこもった口調で言った。
 少女に覆いかぶさると、目をつぶり顔を背けていたカガリの顔を自分に向けさせた。
「ごめん、カガリが可愛すぎるから今日は手加減できないかもしれない」
「いっつもしてない……」
 カガリがすねたように言うとアスランはわざとらしく首を傾げた。
「そうかな?」
「……そうだよ、ばか」
 自然と顔が近づき、二人の唇が触れる。
 少しだけ舌を絡めあって、キスが終わると、アスランは自身をカガリに埋めていった。
 熱を持った異物が押し入ってくる感覚に、カガリは顔をしかめた。
 カガリの膣内は十分に潤っていたので、ひっかかりはなく挿入はスムーズだったが、それでも膨張したアスランをすんなり受け入れるのは難しかった。
「大丈夫か?」
 抑えた息遣いが心配だったのだろう、自身が入りきると動かずにアスランは聞いた。
「もしかして痛いのか……?」
「ん……や、痛くはないぞ……ただ、なんだか」
 いつもよりおっきい気がするから、とカガリが小声で打ち明けると、アスランは吹きだした。
「ごめん、そうかもしれないな。今日は俺もだいぶ我慢したし……」
 そこで声を落とすと、カガリの耳に続きを囁いた。
「自分でするカガリがものすごく可愛かったしな」
「あれはもう忘れろってっ」
「いやだな。なんなら今度は俺がもっと上手なしかたを教えてあげるよ」
 当分はあれをネタにされそうな予感がして、カガリは誘惑に負けたことを思いきり後悔した。
「カガリ……そろそろ動いても平気か?」
 アスランは膣口付近を指でなぞった。
「あ、……うん」
 内部も慣れてきて、緊張はやわらいでいた。
 アスランがゆっくりと抜き差しをすると、快感が昇ってきた。
「はぁ……気持ちいい」
 味わうようにじっくり動いてみて、アスランはため息をついた。
 そうして、カガリの腰を両手で支える。
「手加減……しなくていいんだよな?」
 アスランは切なそうに眉を寄せていて、よほど堪え難かったのか、いきなり律動の速度を上げた。
「あっ、や! アスラ……っ」
 カガリは驚いて腰を退こうとしたが、力も入らない上に、あらかじめアスランの手で腰は固定されてしまっていた。
 律動に合わせてベッドが大きく軋む。
 カガリの愛液と、アスランの先走りが、繋がった場所から溢れ、雫が飛び散るくらいに、アスランの突き上げは激しい。
「きゃ、あっ!あ!……っふ」
 口から悲鳴のような声が出てしまう。
 誰かに聞かれないとも限らず、カガリは手の甲を噛んで声を殺した。
「く……、我慢されると……よけいに鳴かせたくなるんだが」
 律動を続けながら、アスランはカガリのひざ裏に手を入れて、両足を持ち上げた。
 劣情を煽るような姿勢をとらされる。
「ひぅ、……あ、ん! んっ」
 角度を変えたアスランに、膣内の敏感な場所を刺激されて、口から嬌声が飛び出てしまった。
 それを、あわてて両手で押さえ込む。
「ふ……、可愛い、カガリ」
 眉根を寄せていたアスランから笑みがこぼれた。
 涙を零しながら声を必死で隠すカガリと、熱い吐息を吐きながら攻めるアスラン。
 外見だけ見ると、二人の姿はどこか禁忌を侵しているように、秘やかで隠微だった。
 それをお互いも感じていて、背徳感がいっそう二人を興奮させた。
「あ、……アスラン! もぅ……んっ」
 真っ白になりそうな予感があって、カガリはアスランを求めて腕を伸ばした。
 絶頂の時は肌を重ねて、愛しい人をできるかぎりで味わいたかった。
「俺…も……っ、カガリ」
 カガリの腕に応えて、アスランもカガリの体をすくい上げるように抱き締めた。
 にじんだ汗で滑る体を合わせて、二人はお互いを高め、貪った。
 熱と、甘ったるく淫らな匂いに満ちた部屋に、押し殺した開放の声が聞こえ、しばらくしてベッドのきしみがやんだ。
「はぁ……はぁ、は」
 荒い息を吐きながら、二人はきつく抱き合っていた。
 (……気持ちいい)
 余韻が下半身から沸き上がり、指先まで響く。
 放たれたアスランの想いが、温かさをともなって体の中心に満ちる感覚が心地よかった。
 呼吸が落ち着くまで抱き合って、アスランは体を離すものだと思っていたのだが、抱いていた手のひらが肌をはい回りはじめて、カガリは声を上げた。
「お、おまえな……ちょっとくらい間を」
「もったいない」
 彼の手は体をまさぐり、唇での愛撫も加わる。
「ふ……ゃ、は」
 高ぶりの醒めきっていないカガリの体はよけいなくらいに反応を返す。
 カガリの体の中心がうずきだすのと同時に、その中に入りっぱなしのアスランも硬さを取り戻してきた。
「ぜんぜん足りないよ……カガリ」
 物足りなさを訴えるように、アスランは甘えた声で言った。
「ばか、明日も……、任務が」
「一日くらい平気だよ」
「おまえ、それでも隊長かよぉっ」
「そうだな、隊長命令だ。カガリ・ユラ・アスハ、君は明日は非番だよ」
 無邪気なくらいににっこりと笑った顔が妙に歳相応に見えて、不覚にもカガリは可愛いと思ってしまった。
 そんな感想を言っても、きっと彼はむっとするだけなのだろうけど。
 
 禁欲的な石造りの兵舎の一室で、二人は蜜のような夜を過ごした。
 一歩その部屋を出れば、冷徹な上官と、反抗的な新米騎士になる二人だったが。
 真夜中に、彩り艶やかに薫りを放つ花を咲かせることは、夜だけが知る秘密である。





リクエストを頂いて書いたものでした
十年以上前に書いたものを読み返すってなかなかの苦行でした

初出 2007/08/09