これは恋ではなくて
05
また朝がきて、会社にゆき、IDを通して、机につく。
そうなればアスランとカガリが言葉を交わすことはほとんどなかった。もともとがそういう関係なのだから、それは違和感のないことではあった。仕事をしている間のことは、付き合いを始めたからといって何かが変わるわけではない。
けれども、ただ、カガリの気持ちが違っていた。
出勤してきて、アスランを見つけたとき。ふとしたときに目で追う姿と、顔を上げて視界に入る藍色の髪、雑談に出てくる彼の名前に、不思議な親しみを感じる。
(なんだろう、友達とは違う感覚だな……)
やがて就業時間がきて、席を立っていく先輩達に続いて、いつもなら部屋を出る時間がきてもカガリは仕事を続けた。アスランがまだ席についていたからだ。
「アスハさん、まだ帰らないの?」
隣の席の先輩がたずねてきたが、カガリは首を振った。
時期的に仕事が多くはないので残業する者は少なく、部屋はすぐにふたりだけになった。最後まで残っていた上司がドアを閉めて出ていくと、キーボードを打つ音がやけに大きくなった気がした。
「仕事、終わりそうですか?」
アスランが机の向こうから声をかけてきた。
「まあ……いつでも終われるんですけど」
カガリはキーボードを叩きながら返事をした。
「アスハさん。最近、残業することが多いですよね」
「白々しい。どうしてか、わかってるくせに」
「俺のためですか? やっぱり」
アスランは楽しそうに笑った。
「なら帰りましょうか。遅くなっちゃいけないし」
「え、仕事は片付いたのか?」
「家でやればすむことだから」
彼は言ったとおりにすぐに仕事を切り上げた。
どうやらアスランは、カガリがいつも自宅に持ち帰っているような作業を会社でしているようだった。自宅での作業も会社のサーバーへのアクセス時間から残業代が算出されるため、オフィスに残る社員は珍しかった。
「もしかして、会社が好きなのか?」
帰り道でたずねると、アスランはまさか、と笑った。ビルの間を抜ける風が冷たくて、カガリは両手をポケットに入れて歩いていた。
「その逆、というか、家にいるのが好きじゃないんだ」
「家って……もしかして家族のこと?」
「今日はめずらしく質問攻めだな」
アスランは少し意外そうに眉を上げた。
「家族はいないよ。ひとりだから」
「ひとりって、一人暮しということか?」
アスランはうなずく。初めて聞くことだった。そういえばアスランのことで知っていることは数えるほどしかないのだと、カガリは思い至った。
「ひとりだと寂しいよな……」
「そうでもないよ。気楽でいいところもある」
寂しがりなカガリには誰もいない家に帰るなど、考えられないことだった。一人で夕食をとり、仕事の残りを片付けるアスランを想像して、途端にカガリは切なく思った。
「そうだ、アスラン。私が家に行ってやるよ」
名案を思いついたとばかりに、カガリは声を弾ませた。
「それなら私もアスランを待つ必要もないし。いい考えだろう?」
笑顔でたずねたが、アスランは同意をせずに神妙な面持ちでカガリを見つめていた。アスランが特別反対も賛成もしなかったので、カガリはぐいぐい引っ張るようにして彼のマンションをたずねる予定を決めて、その日は別れた。
最寄り駅をたずねると、彼が答えたのは会社からほんの十分の位置にある駅名だったので、カガリは大いにうらやましがった。カガリの実家はそこからさらに四十分はかかるが、上手いことに乗り継ぎせずに帰れる。
(二人で協力すればきっと仕事もはかどるしな)
いい仲間ができたようなものかな、とカガリは思った。フレイもラクスも所属する課が違うので、仕事の相談をしたことはなかったのだ。
なんとなく、学生の頃の学園祭を思い出す。大学の近くに下宿していた友達の家に数人で集まり、おしゃべりをしながら、模擬店の準備や計画を進めたものだった。菓子や夜食を山ほど持ち込んで。似たようなわくわくする気持ちをカガリは感じていた。
今まで接点のなかった二人が唐突に肩を並べて定時退社するのも周囲のいらぬ興味を引きそうだからと、前日に申し合わせていた通りに、アスランとは外で待ち合わせた。
「どうしたんだよ、変な顔して」
目印にしていたコンビニの前で待っていたアスランは、後から到着したカガリを見ると、複雑そうな顔をした。
「いや、本当にうちに来るんだなと思って」
駅までの道を、二人は並んで歩きだした。
「そうだぞ。私は言ったことは守るからな。それにアスランさ、どうせ夕飯はいつもひとりで食べてるんだろう?」
まあな、と答えが返ってくる。
「あのな、言っとくけど、ご飯は絶対に誰かと食べたほうがおいしいんだからな。これは間違いない」
カガリは自信たっぷりの目でアスランを見た。
「一人暮らしは自由気ままでいいなと思うけど、たまにはにぎやかなのもきっといいと思うんだ」
「……カガリの女友達が過保護になる理由がよくわかったよ」
アスランは上機嫌なカガリの隣で、深いため息をついた。
「女友達って、ラクスとフレイのことか?」
二人の話をしたことがあっただろうかと、カガリは記憶を探った。
「ああ、たぶんその二人だ。昨日だったかな、赤っぽい髪の二人に廊下で呼び止められたんだよ。どうやら待ち伏せされていたみたいだったんだが。カガリを泣かせたら許さないというようなことを言われたよ」
「ええ? そんなの聞いてないぞ」
つい、大きな声を上げてしまった。
「まあ、心配するわけだよな」
苦笑いをして、アスランはまた息をつく。さっきから、ため息が多い。足どりまで軽いカガリとは反対に彼はどこか沈んでいるようにも見えて、カガリはふいに気持ちがかげった。
「なあ……もしかして、私が家に行くの迷惑だったか?」
はしゃぐのをやめて、カガリはアスランの様子をうかがった。
「私、なんだか、アスランが寂しそうに見えて。一人より二人のほうが楽しいだろうな、って思ったんだけど……」
昨日、家にいるのが好きじゃないと言ったアスランの横顔は笑顔だったが、どこか、カガリの胸をざわつかせるものがあったのだ。実体もない、言葉にもできない、彼の心に潜むものが見えた気がした。
「迷惑だなんて思ってないよ。カガリのそういう明るさだったり優しさはすごくうらやましい」
風船がしぼむようにみるみる自信をなくしたカガリに、アスランは笑いかけた。
「いいよ、おいで」
小さな子供を誘うように言う。
「アスハさんの仕事も俺が片付けてあげるから」
「ん? 仕事はちゃんと自分でやるぞ」
そこだけは、カガリもきっぱり言った。すると、アスランはようやくいつものように声をあげて笑い、ふと声色を変えた。
「でもひとつだけ前置きしておくけど、後悔しないのだったらいいよ」
「後悔……?」
カガリは淡い色のまつげを素早くまたたかせた。
「後悔って」
一瞬考えて、あ、と手を打った。
「もしかして、おまえの部屋、ものすごく散らかってるとか? 私、それは片付けてやれないなあ」
同情する仕種をしてみせたカガリを見て、アスランはまた笑っていた。
アスランの住む部屋は十二階建ての分譲マンションだった。購入したのではなくオーナーから借りているのだという、1DKの間取りはゆったりと余裕があり、カガリの知る一人暮し者の住む部屋から想像していたものとはだいぶ違っていた。
「なんか、綺麗だな」
部屋を見て、カガリは初めにそう感想を言った。
カガリの部屋よりもずっと片付いている。というより、ものがないのだ。目につくものはベッドと二人掛けのダイニングテーブルとソファーに小さな食器棚くらい。雑誌や服のひとつも散らかっていない。モデルルームのようで、人が生活している気配がないくらいだった。
「アスラン、ここでちゃんと生きてるのか?」
「当たり前じゃないか。おかしな言い方をするなあ」
立ち寄ったコンビニの袋をテーブルに置いて、アスランはクローゼットの扉を開けた。こちらも整然とスーツやジャケットが並んでおり、彼の性格を物語っていた。
「カガリ、コート貸して」
言われて、コートを着たままだったことに気付く。アスランはもう上着を脱いでおり、カガリのコートを受け取りながら彼はネクタイを緩めた。
「そんなとこに立ってないで座っていいんだぞ」
アスランはソファーに身を沈めてシャツのボタンをひとつ外した。白いシャツ越しに彼の腕や胸板がうかがえる。
「あ……あの、夕飯は?」
「ああ、食べようか」
コンビニのオムライスと弁当がテーブルに並ぶ。カガリは簡単な料理くらいするつもりでいたのだが、そのことを彼に話すと、笑って無理だろうと言われた。それはカガリの料理に期待していないのではなくて、まともな調理器具も、調味料も、アスランの家にはないらしいのだ。
「いつもこんな夕飯ばっかりなのか?」
「いや、家で食べることはあんまりないな。たいていは外ですませるから」
とろりとした卵とチキンライスを口に運ぶ。なぜだろう、味がよくわからなかった。
「もしかしなくても、いまさら緊張してる?」
会話が途切れたタイミングでアスランがたずねた。
「え? いや、べつに緊張は」
していないとは言えなかった。だが、どうして急に落ち着かない気持ちになるのかが、カガリはわからなかった。
「よかったよ。実際、家に上がってまで意識されなかったら、正直どうしようかと思っていた」
安堵を含んだ声でアスランは言った。
(意識……?)
聞き返すのをためらっているうちに、黙々と食事を口に運ぶだけの流れになった。何か話そうとカガリは話題を探したが、見つからなかった。
どうして、彼まで黙っているのか。音楽のひとつもない部屋の静けさが憎かった。この部屋にはテレビもないのだ。たぶん居心地が悪いのは、知らない部屋だということとこの静けさのせいだと、カガリは思った。彼の部屋をにぎやかにしたくて来たのに。
「コーヒーでも飲むか?」
食べ終わって、初めてアスランは口をきいた。調理道具はないのにコーヒー用品はそろっているらしく、カガリが欲しいと答えると、ハンドドリップでコーヒーを淹れてくれた。
「じゃあ、仕事でもしましょうか、アスハさん」
彼はノートパソコンをテーブルに置いた。
「あ、じゃあ私はデータを」
「それとも、べつのことでもする?」
ふいに囁かれた。大きく見開いた金色の瞳を、アスランは捕らえていた。
「べつのって……」
声がかすれる。じわりと体が硬直していくのがわかった。
「そうだな、たとえばなにがあると思う?」
翡翠の瞳がカガリを逃がしてくれない。
「し、知るかよ……そんなの」
「試してみようか?」
やわらかい動作で彼はカガリの手からコーヒーカップを抜き取った。
「カガリは本当に何にも知らないみたいだから」
カップを包む形で固まっているカガリの手にアスランの指が重なる。カガリはアスランの瞳が近づいてくるのをただ見ていることしかできなかった。額が触れそうなほど間近にきて、アスランはふと動きを止めた。そして、何がおかしかったのか吹き出し、笑いはじめたのだ。
「そんなに固まらなくてもいいのに。まるで天敵に出くわした小動物みたいだな」
「な……」
「ごめん、冗談だよ。ちゃんと仕事しよう。カガリは仕事しに来たんだもんな」
あっさりとアスランの体が離れてゆき、そのままパソコンに向かった。
「それで? カガリはなんの資料を作るんだっけ?」
アスランはなんでもなかったように、会社から持ち帰ったノートパソコンを開く。
「あ、えっと、私は……」
まだ動悸がおさまらないが、カガリは必死に頭を動かした。
「私が、去年のデータを整理するから、アスランにそれをレポートの形にしてもらおうかな、と思って」
「わかった」
アスランはコーヒーに口をつける。
ぼうっとしているあいだに仕事をする運びになってしまい、とりあえずカガリも資料を広げるのに手頃な場所を探した。広々としたセンターテーブルに鞄から出した書類を並べてソファに腰掛けると、自分の会社用パソコン立ち上げた。
二人ともが無言でパソコンに向かう。先ほどの一連のやりとりなどなかったかのような静寂が再びおとずれて、カガリはやっとおかしいと思いはじめた。
(さっきのは……)
アスランはなにを仕掛けて、やめたのか。
(もしかして、おちょくられたのか? 私……)
だんだんと冷静さを取り戻してくると、それに比例して怒りがわいてきた。アスランはカガリが緊張しているのを煽って、楽しんでいたのだろうか。
「どこまでできた?」
「知りません」
ふてくされた返事を聞いて、アスランは手を止めた。
「やっぱり怒らせたか」
「わかってんならするなよ」
カガリは顔を上げずに仕事を続ける。。
「でも、あのまま続けていたら怒らせてしまうくらいじゃすまなかったと思うけど」
「私はおまえがなにをしたいのか、さっぱりだ」
カガリはますますむくれた。面白がっているとしか思えなかった。
「カガリの友達二人も言っていたな。カガリは、子供がそのまま大人になったようなところがあって、真っさらで、無知で」
「子供っぽくて悪かったな」
「悪いって言ってるんじゃない。それはカガリの魅力だよ」
不意打ちで、そんなことを言う。
「君はたぶん、捨て猫なんかをいつも拾ってきてしまうたちなんじゃないのか?」
その通りだったが、何の話かとアスランを見たら、彼もこちらを見ていた。
「独りぼっちでいるものを放っておけなくて世話を焼いてしまうんだろう」
席を立って、アスランが近づいてきた。
「でも、俺は猫じゃない」
ソファに片膝をついたと思ったら、身構える間もなくカガリは手首を掴まれた。
「俺がカガリと同い年の男だってことほんとうにわかってる?」
強く引かれたわけでもないのに、滑るように重心を崩され、カガリはソファに倒されていた。柔らかい座面が背中の衝撃を吸収する。仰向けに倒されたカガリに、アスランの影がおおいかぶさった。夜の色をした髪がさらりと落ちる。
「あ、アスラ……」
のどが引きつる。
「しかも、いまの俺にはいちおう君の恋人という肩書があるんだけど」
頬をアスランの指が滑る。片腕を押さえつけられているだけなのに、起き上がれなかった。体に力が入らないのか、アスランの力が勝っているのか。
「そんな、怯えた顔するくせに」
「……だって、おまえ」
怖い、と初めて思った。
アスランのほうが圧倒的に力があるのだと、どうして今の今まで思わなかったのか。たぶんどうにかしようと思えば、彼にはいつでもできるのだ。
「は、離せ」
「自分で外せばいいだろう? 俺はそんなに力を入れてないぞ」
「馬鹿言ってないでどけよっ」
真剣に頼めばアスランが離してくれるはずだと、思いながらも今のアスランが離してくれる気がしない。影になって表情がわかりにくいからか、カガリの知っている彼ではないようで。
「抵抗しないのなら知らないぞ」
アスランのひざに体重がかかるのがわかった。太腿の内側にスラックス越しの体温を感じる。腕の拘束にもぐっと力が込められた。
「やっ!」
カガリは短く悲鳴を上げた。ひどく怖かった。心臓が警鐘のように激しく鳴ってカガリをせきたてる。
「……いやだ」
声が潤んだのが先だったか、カガリの瞳からぽろりと雫が落ちた。彼が悪人でないことはわかっているし、泣きたいわけではないのに、涙が止まらなかった。
「離して……アスラン」
息をすすりながら言うと、重かった手首が軽くなり、視界の影が離れていった。
「……すまない。泣かせるつもりじゃなかったんだ」
弱りきった声だった。
「ごめん、大丈夫か?」
めくれていたツイードのスカートをアスランが直した。それに答えて、涙をぬぐいながら何度もうなずいた。
「こんな方法を取るべきではなかったな……悪かった。こんなに泣かせてしまうなんて」
アスランに支えられながら体を起こしたのに、涙は一向に落ち着かなかった。彼の声が胸に染みるように優しくて、また涙が込み上げてきてしまった。
「カガリが最初に怖がった時にやめるんだった……」
反省した口調でつぶやいて、アスランは顔をおおうカガリの両手をそっと取り除いた。
「カガリ……泣かないでくれ」
安心させるように、髪を撫でて、琥珀色の目許の雫を唇でふわりとぬぐう。甘い動作の続きに、アスランはカガリの唇にも唇を落とした。小さな子供を慰める行為のようだった。
やっと、涙の止まったカガリが顔を上げると、アスランはほっとして微笑んでいだ。
「……なんだよ、今の」
カガリは少し頬を赤らめた。
あまりにも違和感がなかったから、受け流してしまったが、いいとも何も言わないうちにアスランの唇はたしかに触れていた。
「私、許可してないぞ」
ちょっとばかり睨みをきかせると、アスランは困ったように笑った。
「ごめん、なんとなく……チャンスかなと思ったらもったいなくて」
「チャンスってなんだよ、馬鹿」
カガリは本格的に赤くなった。
だいたい、チャンスだからといってどうしてキスになるのか。
「今のは不可抗力だぞ」
「男なんてそんな小さな隙を狙ってるやつばかりだということだ」
「話をすり替えるな」
「すり替えてないよ。俺だってカガリを狙っている一人だから」
アスランは急に真面目に口調を変えた。
「カガリは隙が多すぎるよ。今まで無事だったのが不思議なくらいだ。おそらく、あの友達二人みたいに誰かが守ってくれていたんだろうけど」
「私は自分の身も守れないような子供じゃないぞ」
「子供だよ、実際の子供よりずっと」
アスランはきっぱりと言い切った。
「中身と外身が噛み合ってないから困るんだ。さっき、カガリが泣いても俺が手を止めないようなやつだったらどうなっていたと思う?」
思い出して、カガリは今度は青ざめていた。あの続きにどのような行為があるのか、詳細な知識を持たないカガリだったが、力ずくで何かをされるのは恐怖なのだということが今は身に沁みていた。
「カガリにはたぶん信頼できる男友達がいるんだろうな。だから一人暮らしの男の家に上がるのになにも抵抗がないんだ。でも、これから出会う男がみんな安心できる相手とは限らないだろう」
「でも、私は」
「わかってる。俺を信頼してくれたんだよな」
軽くカガリを制して、アスランは続けた。
「だけど、カガリは俺の家に来たいと言い出した時に、こういう可能性を少しも考えてなかったんじゃないのか?」
アスランの問いは正解を突いていたので、出かかった文句をカガリはぐっと飲み込んだ。
「これからはせめて、安全な人物かどうかを考えてからこういう関りを持ってくれ。俺と付き合っているあいだは俺だけにしておいてくれよ……って、言っておかないとカガリはどこへでもすぐに行きかねないからな」
悔しいが、アスランの言ったことにカガリは過去の行動の反省点をいくつも見つけてしまったので、ここはうなずくしかなかった。
「……わかったよ」
カガリは渋々首を縦に振った。
警戒心が足りないのは、弟のキラにもたびたび注意されることだった。今さっき、アスランにされたことを誰か他の人にされることを考えると、心底ぞっとするので、カガリは気をつけようと心に決めた。
しっかりと決めたのをよしとして、でも、とカガリは体を乗り出した。
「でも、アスランの家に上がるのはいいだろ。ちゃんといいやつだってわかってるんだからさ」
ひるんだアスランに、カガリは次々畳みかけた。
「私、今日来て思ったんだ。おまえ、たまには家で夕飯食べたほうがいいぞ。料理ができないんなら私がしてやるから、外食ばかりじゃいつか健康を害すぞ。鍋の一つもないなんて……だから人が住んでる気配がしないんだよ、この部屋は」
そうだ、今度の休みに料理の道具を買いに行こうと、カガリはもう部屋をくるくる歩き回って調理器具の置き場の構想に入っていた。
その背中を眺めながら、やっぱりよくわかっていないと、アスランは額を押さえてため息をついていた。